昔むかし

 津木という村に一人の高校生がいました。彼の名は幸一、和工の学生でした。昭和28年7月18日、まだ明けやらぬ朝に、通学のために準備していた彼に、兄の春次が「雨のため川の水が異常に増えている。危ないから手伝え」と言い、一階にある物品や、引き出しなどを二階に揚げ始めました。

 ところが、水量はじわじわと増え始め、瞬く間に家じゅうのすべてを押し流してしまいました。お店をしていた我が家ですが、商品のすべてが広川のあぶくとともに、流れ去りました。


 結局、この日は学校に行けずに、数日後、通学に使っていた自転車が川の下流で見つかったと言っている。63年前の出来事だ。
 
 今日、墓参に来てくれた親父の兄弟で一人だけ生き残っている(表現がリアル過ぎ?)彼に、当時の記憶を聞いてみた。

 この時の死者と不明者は有田郡で1015人と言う、史上初の大災害だった。異常気象の今年だが、大自然のバカな記録更新は控えてほしい。今日はただイチローの3,000本達成の余波に浸ろう。