椎名誠との出会い

 家の整理で大量の古本が出てきたので、裏の焼き場で少しづつ燃やしている。タイトルを確認しながら内容を思い出そうとするが、ほとんど忘れてしまっている。

 

 かつて千葉から東京の職場へ通勤の途中で、多くの本を読んだ。ある年には「1年100冊」を目標にし、達成した年もあった。

 

 家に溜った本は、都度田舎の親に送ったりしていたが、本好きの親父は喜んで読んでくれていたようだ。

 

 なかでも文体が気に入ってはまったのが椎名誠だった。代表作の「さらば国分寺書店のおばば」「哀愁の町に霧が降るのだ」「わしらは怪しい探検隊」「岳物語」「アド・バード」など、作品の半分近くは読んだだろう。

 

 そのうち探検隊仲間の作品も読むことになり、カヌーイストの野田知祐、イラストの沢野ひとしのうまへた絵、弁護士になったキムベン木村晋助、北海道アリスファームの藤門弘などと本のなかで知り合うことになる。

 

 北海道にいたときには赤井川村のアリスファームを訪れて「こんにちは、こちらの藤門さんが椎名誠さんとお友達だと知って来たのですが」と言ったら「あのお、ご親戚の方ですか?」と聞き返されたこともあった。なんとなく風貌が似ていたもんで。

 

 本人ともニアミスしたことがある。確か彼が作った映画「白い馬」の発表会に妻と二人で参加した時に、舞台上で誰かがしゃべっているときに、こそっと、すぐ横に座りに来たことがあり「おいおい」と思ったが声をかけることはできなかった。

 

 78歳でご健在のようだが、大親友の野田知祐は昨年84歳で亡くなった。「岳物語」のガクは野田が飼っていた犬の名で、いつも彼のカヌーの上に乗って世界中の川下りをしていた。

 後日、この岳を可愛がっていた「しーな」は、わが息子に「岳」の名を付けてしまったのだった。