越中富山の薬売り

 子供の頃には、家庭常備薬として、各戸に薬屋の屋号が入った箱がいくつもあった。ほぼ一年間隔で、消費した薬を補充して、消費分を支払うというシステムで100年は続いているだろう。

 今日、そのうちの一人が入って来た。はっきり言って「もう、要らないので引き上げてくださいよ」と思ったが、律儀に昔ながらの薬草箱を持ち込んで、在庫チェックを始めた。

 「富山から大変ですねえ」と言うと「10年ほど前から加茂郷のアパートで単身赴任です。妻は、富山で認知症の母と暮らしています」と言う。

 年齢を聞いたら二つ下だったが「お互い大変だよねえ、1年後にまたお会いしましょう」と、まったく使っていないので代金0円で別れた。

 余談だが、彼の名は「黒田悟史」で「さとし」と言ったので「ええ、同じ名前だね、僕は哲と書いてさとしだよと返した。

 

 さらに息子は秋葉原で働いていて、名前は徹だという。おい、それも同じじゃないか!