山が黒くなった

 今年一番の冷え込みで水道が凍った。わずか一ヶ月ばかり前に完成した蛇口からもお湯が出てこない。「なんじゃ、こらー」と叫びたいが自然が相手では手も足も出ない。しかたなく冷たい水で顔を洗って今日も仁義のみかん取りに向かった。
 きつい斜面でみかんを取りながら、姉さんの話によると、一昨日私達の子供達にもみかんを送ってくれたそうだ。その結果、昨日はお礼の電話が殺到したということだ。剛の嫁の実家でも、おおいに歓迎されて自分家の庭で取れたみかんには眼もくれず仁義のみかんばかり食べたという。(そりゃ、そうでしょ)
 3時の休憩のときに、コーヒーを飲みながら前に拡がる仁義谷の光景を見て「山が黒くなったなあ」と彼らが言う。それまでは「赤かった山」がみかんを取ることによって緑になったということだ。これは認めるところだ。こんな大きな山だが、結局、人間の手で摘み取ってしまう以外に方法はないのだ。