【第二話】
ある日、カマ詰めが深夜に及ぶことがあった。(カマ詰めとは、炭になる材木が一週間の乾留を終えて真っ赤に熾きて、これを空気を遮断することで黒炭にすること)
それが深夜の2時ごろになって、春次は私をホンダドリーム号の荷台に乗せて室河峠に向かった。
この峠には、かつて小山権現が祭られていて、有田と日高の両側から参拝者があって賑わった。しかし、その頃には建物も朽ち果てて、礎石がゴロゴロところがっている惨状だった。
炭小屋への小道には、いつのものかは分からない数基の墓石が建っていた。灯りは春次が持つ懐中電灯ひとつで、哲は後ろに得体のしれない闇を引き連れていた。
その墓石の前を、春次のケツにひっついて着いて行ったが、いつ鬼に襲われるかという恐怖が半端じゃなかった。
そりゃ、戦争の体験もある親父だったので、生々しい人間の生死を見て来たであろうが、それが逆に怖かったから小4の私を共にしたのではなかっただろうか。(つづく)