人生の楽園

 気温が下がりずいぶんと秋の気配が濃くなった。ナナとの散歩で、どこからかキンモクセイの良い香りが流れてくる。普段は気にしていないが、季節が訪れると「おっとどっこい私はここにいるのよ」とばかりに「便所の花」の蔑称を吹き飛ばすほどの芳香を漂わす。
 川には台風の大水でも流されずに大型の鮎が銀鱗を翻している。野にはススキの穂が膨らんで風に揺れている。マンジュシャゲの花も真っ盛り、稲刈り後の田んぼでは、コンバインで寸断された稲わらに火が点けられて煙をたなびかせている。典型的な田舎の秋の風景が毎日眼前に拡がる。
 先ほどテレビで「人生の楽園」が放映されていたが、いながらにして実践しているのは我々ではないだろうか。今日もベランダで、明治時代に船が座礁して無人島に流れ着いた事実に基づいて書かれた「無人島に生きる十六人」を読み終えた。

【橋のたもとに咲く名もない花】